2014年4月1日火曜日

インタビューのセンスと技巧(3)

「話しやすい状況を事前につくる」

主旨に沿って進行され、満足度が高いセミナーにするために、ファシリテーターに求められる重要な当日の仕事のひとつは「セミナーが開始される前に、話し手(公開インタビューを受ける複数者)が話しやすい状況をつくる」ことである。


●良好な関係性を築く

まずは、話し手とファシリテーターの、良好な関係性。

それは、話し手に「この人(ファシリテーター)は、自分の話を聞く『態度』と『能力』がある」と思ってもらうことである。

「きちんと聞いてくれる人だな」「気持ちよく反応してくれるな」
「発言の要旨を分かってくれるな」「端的に答えれば大事なところを深掘り質問してくれるな」

いかにそう思ってもらえるかであり、ひと言でいえば、安心感だ。

たとえば、論理的であることが重要な仕事をしている(または論理的であることが心地よいコミュニケーションである)話し手に、「元気いっぱい、ハツラツとインタビューします!」という態度が伝わっても、それはむしろ「大丈夫か、この人」と思われる。

結果として、「ファシリテーターと会話する」のではなく「話すべきことを論理的に説明する」。だって話し手はファシリテーターに不安をもち、自分で言い切ってしまった方が学生にも伝わると考えるから。

もちろん、論理的な説明は、多くの場合、分かりやすい。

けれど、「社員としての仕事未経験者」である学生にとって、「仕事の話を一方的に説明される」ことは、思いのほか、理解が難しい。だから私の仕事ニーズ(学生の前でのビジネスパーソン公開インタビュアー)がある。

一方、たとえば、論理的であるよりも、他者の些細な気持ちや感情を読み取ることが重要な(または、同)話し手に、セミナー開始前に論理的であり続けると、のびのびとした、ご本人の言葉がセミナーで出てこない。

会場にいらした際に挨拶をしっかりする、ハキハキと明るく受け答えする、といった基本で「態度」を示し、その後の打合せでの進行説明や会話で「能力」についても安心感をもってもらう。


●話し手同士の関係性を築く

話し手にとって、ファシリテーターとの関係性もさることながら、気になるのは、同じ場に登壇する他の話し手である。

企業の看板を背負って来ている以上、「他社に負けないぞ」という勇ましい気持ちでセミナーにくるのは当然だ。

ただ、そのままでは、「他社よりも良い話をしよう」と思い、「長い話」が展開される。それだけならまだしも、それを聞いた隣の話し手も「向こうがそんなに話すなら自分も…」。PR合戦という、主旨とは異なる、どうにもつまらないセミナーの完成である。

だからこそ、話し手同士がセミナー開始前に関係を築き、「お互いにとって、何より、聞いている学生にとって、意義あるセミナーにしましょう」という「目的地の合意」が大事。相互にそれが確認され、しかも笑顔で会話をしてくれていたりすれば、セミナー成功は約束されたようなものだ。

打合せ終了後、私は「話し手同士の会話」が始まったと判断したら、早めに席を外すことにしている。

話し手同士の関係性構築にとって、ファシリテーターがその場にいて、会話の中心となることはそれを阻害すると考えていているから。

そして別のことを始める。場の空気づくりだ。


●場の空気をつくる

話し手とファシリテーター、話し手同士、それぞれの関係性を築くこと。

もうひとつ、「話しやすい状況を事前につくる」とは、場の空気をつくることだ。

つまり、集まり始めた聞き手である学生の体温を1℃くらい、あげておくことである。

私の場合は

・入口で目を合わせながら一人ひとりに挨拶し続ける
・前の席の方に座った学生と大きめの声で会話する
・混み合ってきてマイクを通じたアナウンスを入れる時も固めの声は出さない

といったことに気を付けている。

セミナー冒頭に「笑いをとる」「演出する」などで場を盛り上げるという手段は、ファシリテーターの場合、あまり良策だとは考えていない。(笑いについては、それをやれと言われてもあまり自信がないけれど…)

目立つべきはファシリテーターではなく、話し手だ。ファシリテーターは色がつかないほど良い。

だから、開始前までに、挨拶したり、会話したりしながら、「11人」や「少数」ごとに、徐々に会場の温度をあげようとしている。


このようなことをして、「話しやすい状況を事前につくる」ことができれば、「4社同時の、公開インタビュー」の場は、何か別の力が働いているように、きれいな運動を始める。

実はインタビュースキルそのものよりも、この「始まる前の関係性づくりと空気づくり」こそ、趣旨に沿って進行され、満足度が高いセミナーを生み出す要だと考えている。