2010年8月19日木曜日

キャリアは他人のためのもの(内田樹氏『街場のメディア論』を読んで)

内田樹氏の『街場のメディア論』(光文社新書)第一講「キャリアは他人のためのもの」を拝読。 → http://amzn.to/92PS9f 

ぜひ、学生全員に読んでもらいたい。ぜひ、就職支援や採用支援、キャリア教育に携わる方々、一人でも多くの方に読んでいただきたい。

私自身、就職・採用という領域で約10年間、仕事をしてきて、「そうそう、そういうことを伝えたいんです!」という内容だった。(2,3年前から内田先生のファンなので、無条件に受け入れてしまっているかもしれないけれど)

一部、抜粋。

「みなさんの中にもともと備わっている適性とか潜在能力があって、それにジャストフィットする職業を探す、という順番ではないんです。そうではなくて、まず仕事をする。仕事をしているうちに、自分の中にどんな適性や潜在能力があったのかが、だんだんわかってくる。そういうことの順序なんです」(P18)
「与えられた条件のもとで最高のパフォーマンスを発揮するように、自分自身の潜在能力を選択的に開花させること。それがキャリア教育のめざす目標だと僕は考えています」(P21)
「開花する才能は自分で選ぶものではありません。(略)人間が大きく変化して、その才能を発揮するのは、いつだって「他者の懇請」によってなのです」(P24-P25)
「「天職」というのは就職情報産業の作る適性検査で見つけるものではありません。他者に呼ばれることなんです。(略)自分が果たすべき仕事を見出すというのは本質的に受動的な経験なんです」(P30-P31)

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私が就職した会社(この6月末まで勤めていた就職情報会社)は、入社当時5名。創業社長と経理の方、そして新卒入社の先輩(つまり2年目社員)が3名という所帯だった。社長以外、みーんな「がむしゃらにやる」以外は何もできなかった。「人気の同業他社にいってる奴らが優秀?じゃあ、そいつらの2倍働くしかないね!ははは!」というノリだった。

入社して数年は、終電(たまに徹夜)の日々だったが、22時くらいになると、仕事終了の目処がたったメンバーが「なんか手伝うことある?」と他のメンバーに声をかけるのが普通の風土だった。

創業社長からは本当に多くのことを教わったが、一番は「仕事は世のため人のため」という哲学だった。

今ではベストセラー作家兼人気講師の方からは「伊藤ちゃんね、仕事は一生懸命、目の前のことをやるだけだよ。そうすると、いつか道が拓けるから」とよく言われていた。「仕事なんて、なんだっていい、と実は思ってるんだよ」とも。ご自身の挫折経験を元にした「言霊」だったので、スッと胸に入ってきた。頭ではなくて。

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入社当時(正確には内定者時代から)就職イベントの担当者になり、いつしか、就職イベントでパネルディスカッションの司会(ファシリテーター)をするようになった。後輩が入り、チームリーダーになった。社員が20名を超えたころ「事業企画責任者」という名刺をもつようになり、大学とのタイアップ企画も、ひとつずつ、つくっていくことができた。

何ひとつ「自分が向いているから」やった仕事ではない。「できそうだから」やった仕事もない。
仕事を発注してくれたお客様、セミナーに足を運んできてくれた学生、企画を通してくれた大学の担当者さん、そして歯を食いしばりながらも明るく頑張る社内メンバー。そんな一人ひとりの「期待」…というよりも「恩返ししたい」という思いで、目の前の仕事に取り組んだ。

30歳の節目。きっかけがあり、初めて、自分の人生の今後を真剣に考えた。
「できること」が増えていた。「できること」が「やりたいこと」になっていた。そしてそれをコアに、いま、勝負するのが「すべきこと」でもあると思った。

ファシリテーターとして起業。

そういう選択だった。

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「夢」がある人はそれに向かって突き進めばいい。
「夢」がない人は、無理につくらなくたっていい。
仕事をして、ひとつずつ目の前のことに一生懸命に取り組んでいると、いつか「志」が生まれるから。
「志」は、「自分って何者だろう?」「自分の天職って何だろう?」「どういう人生が自分にとって幸せだろう?」という立脚点からは生まれない。「他者」のために必死になるうちに、芽生えてくるものだと思う。そして「他者」のために何かに取り組み、感謝されること以上に、人間が幸福感を味わえるものはないのではないか。

だから私は、一人でも多くの学生が「夢」や「理想のキャリアプラン」をもつことよりも、一人でも多くの学生が「この選択が合っているか分からないけれど、とりあえず就職」して、「一生懸命、目の前のことに取り組んでいるうちに『志』をもつ社会」のほうが、どれほど笑顔と思いやりに満ちた社会になるだろう、と妄想する。

ファシリテーターとして、学生と仕事、学生と社会人の距離を近づけることが、その実現への道筋だと思いながら、今日も働いている。

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