2010年9月8日水曜日

大学生の就職難とは何か

就職難であるらしい。

「不況で採用数が減った」「だから就職できない学生が増えた」「特殊な日本の新卒採用一括主義は、未就職者の正社員への道を閉ざすもので、派遣やフリーター急増の大きな要因となる悪しき習慣だ」という意見もある。専門外の人たちもメディアやブログやTwitterで発言している。良いことだと思う。
アイディアが転がっていることもあるし、刺激を受けるし、多くの人が就職問題に興味をもつことは、大きな仕掛けができる可能性を秘めているからだ。一方で、私は企業や大学や学生と関わりながら、就職・採用・キャリアに関する課題解決をおこない、お金を頂いている。「らしい」の話を鵜呑みにするわけにはいかない。というわけで、今起きていることを整理してみる。

※話が拡散するので「日本人大学生の就職」に絞る。データもかなり四捨五入。


1.人口減、大学生増加

少子化である。

19歳~22歳の基礎人口は、89年は750万人、09年は500万人。250万人も減っている(その間、93年がピークで、その後はずっと減)。
それにも関わらず、少子化に逆行するように、大学数と大学生が増え続けている。大学進学率でみると、89年で25%、09年は50%。

750万人×25%=190万人、500万人×50%=250万人。

そう、人口がぐっと減っているのに、大学生は増加している。
ちなみに09年度の大学数は、国立86校、公立69校、私立589校の計744大学もある。
(データ「人口統計」「学校基本調査」)

2.いつも30万人程度は中堅中小企業に就職

ここ20年間の企業の正社員採用数はどのように変化しているか。

まず、上場企業・大手企業の「新規学卒者採用予定数」でみると、20年間で採用予定数が少なかった年は、90年の3万人、01年の4万人。90年代は、3~7万人をいったりきたりしているが、00年代に入ると、04年から09年まで毎年その数を増やし続け、09年には10万人という大台に乗っている。但し、実際には内定取り消しをはじめ、予定数ほど採用しなかった企業が多数だったと思われるため、実数としては08年の9万人がもっとも多い数だろう((『日経リサーチ』調べ。各業界別に上場企業・大手企業から主要企業を日経が独自にピックアップして回答依頼したもの。上述の通りデータは「予定数」)。

就職総数は、不況と言われる直近の10年が33万人、好況の08年が39万人。上場企業・大手企業は好況不況どちらでもせいぜい3~9万人程度の受け入れ枠であるから、大体30万人くらいは好況不況問わず、いつも中堅中小企業に就職していることになる。

3.問題は、大手企業しか受けない中堅校以下の学生たち

就職支援の現場にいる人たちならば実感していると思うが、学生の「大企業志向」は本当に根強い。
約10年間、就職情報会社に勤めて学生と話す機会ももちろんあったが「大企業以外は企業にあらず」くらいに思っている学生もいた。そう思うのは勝手なのだが、中堅校以下の学生が大手だけを目指したら、決まるものも決まらない。企業規模と、入社者の大学偏差値の相関データを見たことも調べたこともないので(存在するのだろうか)ここから先は実感ベースで話を進めるが、実際に就職・採用支援現場で仕事をしていると、大企業ほど入社者の上位校比率は高い、ということを強く感じる(まず間違いないだろう)。初めから「(関東で言うと)東大・一橋・早稲田・慶応しか採用対象ではありません」という企業はごく稀にしかないが(稀にある)、「結果的に上位校」となっている大手企業が一般的だ。

もちろん、中堅校以下の学生を採用することだってある。しかし、その枠はとても限られている。そのことを知ってか知らずか、置かれている環境を理解できないのか「大手企業じゃないとイヤ」という中堅校以下の学生が多い。

1人の学生に対する求人が何件あるかを示す新卒求人倍率、3.63。…これは直近の「1,000人未満の企業」の数字である(リクルートワークス研究所、厚生労働省職業安定局)。ということを勘案すると、中堅中小企業の求人はあるのに目を向けない、特に中堅校以下の急増した学生たち、この学生たちが「10万人」という前代未聞の未就職者数のボリュームゾーンではないだろうか。

(「上位校だって就職難だ」と言われそうだが、そもそも上位校でも就職力がない〔企業には魅力的に映らない、または就職したいという気力が低い〕学生は昔から一定層いただろうし、メディアとしてはネタ的にそのほうが取り上げやすい。実際に大企業の採用数も〔繰り返しになるが全体としてはさほど影響がないにせよ〕減っているのだから『上位校は大企業にいきやすい度』」の話)

4.まとめ:就職難問題の構造

大学生が増え続けている。
企業の新卒正社員採用数は変わっていない。
中堅中小企業の求人倍率は3以上あるのに、学生は目を向けない。当然、多数があぶれる。
大手企業は上位校採用率が高い(だろう)=中堅校以下は採用確率が低い(だろう)。
だから、大手企業ばかり志望して就職先が決まらない中堅校以下の学生がこの問題のキーマンである。
彼らが「10万人」という前代未聞の未就職者数を生みだした。

5.解決策の方向性

ここまで書いて改めて思うのだが、結局、学生が企業と仕事を選びすぎていると思うのだ。

根底にあるのは、小さいころから育まれてきた「買い物意識」だと思う。「私が就職したら、会社は私に何をくれますか?」という問いを自然と立ててしまう。“消費者”としての自然発想だ。その発想で考えれば、せっかく20年も生きてきて「大企業に見劣りするものしかくれない(“消費者”だから給与とか福利厚生とか休日とか)中堅中小企業」は「割に合わない」と思うのだろう。そのことについてはまた別の機会に考えてみたい。

それで。

問いの立て方次第だが「大卒の未就職者数が増えていること」を「就職難」とし、「課題」とするならば、解決の方向性は3つ。

1)中堅中小企業への大卒入社者を増やす(大手企業の採用数は増やせない。増やせても全体解決に対する影響度は低い。むしろ外国人採用の増加によって日本人採用枠は減る)
2)大学生を減らす
3)大学生を企業が採用したい人材に育てる

この具体策を考えているのだが、まだしっくりこないので、ここまで。

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