2011年1月12日水曜日

採用広報活動を遅らせたその先に

1/11、火曜日。

日本経団連が、13年度新卒採用(今の学部2年生ら対象)から、企業の新卒採用に関する広報活動を「3年生の12月以降」とする指針を決定予定、と報じられた。⇒記事

「就職活動の早期化による学業への阻害をなくす」ことがその主たる狙いとされている(就活の早期化・長期化問題はここが論点にされる)。

研究で忙しい理工系や、留学生など、同じ「大学生」でも状況は様々で「時期はこうすべきだ」と一概には言えない。ただ「文系の学部生」に関してこの指針を考えると、うーん、というのが正直な感想かな。

もちろん、メリット・デメリットがあって、比較して「総合的にメリットの方が大きい」と判断し、もちろんそれは「学生にとってのメリット」で考えたうえでの指針であることを信じたいわけだけど、いずれにせよ、就活問題を考える際に「広報や選考の時期」は現象のひとつで、それを変更させることによる他への影響(たとえば「就業意識・意欲」「仕事への理解」「社会人基礎力や就業力の育成」など)がどの程度、考えられているのか、詳細を知りたい。

ざっと思いつくままに書くと

・学生は「仕事」のこと(具体的な日々の職務の内容)を知らない(文系学生と接している私の実感)。そして多くの学生は、企業の採用広報活動を通して「企業」のこと、「仕事」「働くこと」を理解していく。採用広報で得られる「仕事理解」の面をどのように仕組みとして吸収するのか。できないなら、今まで以上に「面接ノウハウ」に頼った「騙し合い」「茶番」面接が増えはしまいか。
・この後「採用広報とは何を指すのか」が議題になり(たとえば、スーツなどの就活関連商品の宣伝は、採用コンサルの提案書的に書けば「就職先としての自社認知向上」になって採用広報費からお金が出る可能性もあるけど、それが「採用広報か」と言われたら「そうではありません」って企業側は言うだろうし)一定の「この活動は採用広報」と決められたりすると、今まで以上に「学生」と「仕事・企業・社会人」との出会い方が狭まってしまうのではないか
・企業も学生も「正直者が馬鹿をみる」という就職協定時代の状況に回帰してしまうのではないか

そんなところだろうか。

実例。

2010年10月~12月に、立教大学で「仕事研究セミナー」を開催した。「企画職の頭の中」「営業職の意気と苦悩」「SE職のウワサとキャリア」など、各回「仕事」に関するテーマを設定し(「知られざるNo1企業の仕事」「面接官の本音」など違う切り口も実施)、4社にお越し頂き、私がファシリテーターとして、その仕事についてインタビューするという企画。企業PRは採用担当者に冒頭に3分間だけしてもらい、メインは、その仕事に就いている方々からの「仕事に関する本音トーク」である。

開催時間は、18:30~20:00。授業時間を避けている。

対象学年は不問。「仕事・企業・社会人」に興味を持ったタイミングで参加してくれればよい。実際、見学に来られた一部の教員(先生)が「社会人の本音を知る良い機会」と考えてくださり、1年生向けの授業で「早いうちにあのような場で仕事のことを知っておくとよい」と進めてくださり、1年生の参加も多かった。

参加学生数は、延べ1,542名(うち、1年生は181名)。
無記名式アンケート(回収率91.4%)で、5段階評価の学生満足度は4.5。
選択式回答の上位3項目は「就職活動に関する気づきや学びがあった:75.5%」「仕事内容(職種)理解・仕事のイメージギャップ解消に役立った:61.6%」「就職活動への意欲があがった:60.4%」
同じく選択式で「次年度も是非実施した方が良い」「実施した方が良い」は合わせて99.8%。

ちょうど今日、立教大学さんとこの企画の振り返りと今後を話していたのだが(詳細は書けないけど)「仕事のこと、社会人の本音を知る機会は早い方が良い」と改めて思った。

さらに言えば、某大学とも「複数社の社会人を招き(私がファシリテーターとして入り)仕事のことを知ってもらう(対象学年不問)」シリーズ企画を「5月~7月」に開催することも決まっている。お問合せいただき、本企画を提案予定の大学も、アポ日程が決まっているだけでも2校ある。

さて、一連のこの企画、企業側は「採用広報」として位置付けているはずである。
同時に、冒頭の企業PR以外の時間については、皆さん真摯に、学生のことを考えて「厳しさ」含めて本音を話してくださる。

上っ面の良い話だけしても、採用効果として意味がないことを知っている。加えて、学生を応援したいと多くの大人が思っている。ゆえに、一生懸命、仕事のこと、働くことについて、話をしてくれる。

経団連加盟企業らが「採用広報を遅らせる」という「指針」が足かせになり、このような場に出づらくなってしまうことを心配している。

※「キャリアプログラム」として、複数大学で本年度も本企画は実施します。あくまで心配しているのは「経団連加盟企業の参加」であり、本企画そのものの位置づけは、大学側とは合意済です。

0 件のコメント:

コメントを投稿